コラム

古武術をスポーツに生かす〜抜重と伸張反射〜

スポーツのトレーニングにおいて「効率的な動き」「正しい身体の使い方」「脱力」というのがテーマの一つとしてよく挙がってくると思います。

そして、そのキーワードを達成するために「古武術」というものが一時期流行りましたね。

東京の某プロ野球チームのK投手や陸上短距離のS選手などなど。

最近ではあまり聞かれなくなりましたが、古武術の動きを取り入れた動きというものは効果がなかったのでしょうか?

今回は古武術の動きの技術の一つである「抜重」についての文献を紹介いたします。

 

抜重とは

通常、動き出しの時は脚で地面を蹴って、その力で動き出すというというイメージだと思いますが、抜重では反対に体重を抜くことで動き出します。

抜重のイメージとしてはジャンプ後の着地でできるだけ音を出さないように衝撃を吸収しながらしゃがみ込む時の動きになります。

古武術の世界では抜重をすることによって「より無駄がなく」「より強く速い」動きになると言われています。

 

床半力の増大、接地時間の短縮

三重大学教育学部が「古武術における位置エネルギーを利用した前進動作の効果」(手島・脇田 2006)において

「蹴り動作」を基準とした「抜き動作」の相対値は、腓腹筋放電量が56%の減少、前傾動作時間が22%の 短縮、鉛直成分の力積が11%の 減少、動作時間が11%の 短縮、キック角度が1%の減少、鉛直分力のピーク 値が7%の増大、水平成分の力積が12%の増大、水平分力のピーク値が15%の増大、大腿直筋放電量が49% の増大した。

と報告し

さらに「古武術における位置エネルギーを利用した横移動動作の効果」(脇田 2008)において

1)「蹴り動作」を基準とした「抜き動作」 において有意差が認められた項目及びその相対値は、 腓腹筋が35 % の 減少 (p < o . o5)、 動作時間が 13 % の 短縮 (p < o ,o5)、 鉛直成分の力積が 11 % の 減少 (p < o . o5)、 移動速度が18%の増大(p<o.o5)、 大腿直筋放電量が85%の増大(p<o.o5) を示した。
2)「抜き動作」 は、 「低姿勢動作」 と比較して、 すべての測定項目において有意な差は認められなかっ た。 3)「蹴り動作」 を基準とした「低姿勢動作」 において有意差が認められた項目及びその相対値は、 移動速度 が21%の増大(p<o.o1)、 大腿直筋放電量が108%の増大(p<o.o5) であっ た。

と報告しており これらの結果は前方向、横方向ともに「抜き動作」が 「蹴り動作」に比較して末梢筋活動の軽減 ・床反力の増大 、 動作時間の短縮といった多くの利点を有する効率的な動作であることを示唆しています。

また動作速度が速くなっているにも関わらず、末端の腓腹筋の放電量が減少し近位の大腿直筋の放電量が増大していることから、「抜き動作」を習得することで近位の大筋群を優位に使い、小さく疲労しやすい末端の筋を活動を抑制できることを示唆しています。

 

抜重は伸張反射?

筋肉はStrech Shortning Cycle(以下SSC)と呼ばれる「素早い遠心性収縮の直後に求心性収縮が起こると、求心性収縮だけの時よりも短時間でより大きな筋力を発揮できる」という機能があります。

わかりやすい例としてはジャンプです。

ジャンプをする時には必ず一度しゃがんで反動をつけると思いますが、その反動をつける動作がSSCを引き起こす動作となります。

古武術の「抜き動作」では動作を行う直前に先行して放電の休止状態が認められます。

また動作開始時以外に随意的な脱力による反動動作でも同じような放電の休止状態が認められることがわかっています。

さらに「抜き動作」による大腿直筋の筋放電量の増加が認められることから、古武術で使われる抜重は動作前に脱力し身体が一瞬沈み込むことで筋肉が伸張され、その反動で強い収縮がヒコ起こされる・・・SSCを利用していることを示唆されます。

 

まとめ

いかがでしたか? 古武術の動きをスポーツに取り入れると怪しそうに思えるかもしれませんが、ちゃんと研究報告もあり、効果的なことがわかっています。

EPochスポーツ事業部でも古武術の動きを運動学的に理論づけた指導をしています。 正しい動き、効率的な動きを身につけて怪我をしにくく最大限のパフォーマンスを発揮したい方はぜひご相談ください。

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