コラム

体幹トレーニング・ドローインの嘘

近年、スポーツに限らずトレーニングの世界では体幹を鍛えることが常識です。

そして、その方法の多くはドローインという腹横筋の収縮を促し腹腔内圧を上げ、スタビライゼーションという等尺性運動によるものです。

これはリハビリテーションの世界で腰痛に対する研究結果からそういったトレーニングが腰痛の予防だけでなく腰椎が安定することで競技力も上がると考えられたからです。

しかし、近年ではその考えは疑問視されています。

<腰痛と腹横筋の収縮遅延>

Hodgeらの研究では『立位での肩関節運動時の腹横筋の筋活動を測定し、正常群と腰痛群で比較した結果では正常群では三角筋より早期に活動していたが、腰痛群では収縮の遅延が認められた。』

Hungerfordらの研究では『正常郡と腰痛群を対象に立位での股関節屈曲時(片脚立位動作)の支持側の体幹と股関節周囲筋の筋電図を測定したところ、正常群では腹横筋、内腹斜筋と多裂筋は運動に先行して収縮していたが、腰痛群ではその収縮時間に遅延を認めた』

という報告があるように、腹横筋の収縮遅延が腰痛を引き起こす1つの要因のように読めます。実際に多くのセラピストやトレーナーが腰痛予防、パフォーマンスアップに繋がると考えてお腹を凹ませて腹横筋を収縮させるドローインを推奨しています。

しかし、近年ではその考えは否定されています。

<腹横筋の収縮遅延は原因ではなく結果>

Hodgeらは『腰痛のない健常人に対して生理食塩水を注入した時と高張液を注入して疼痛を誘発した時の腹横筋の先行収縮を比較した結果、疼痛によって先行収縮が遅延することが確認された』という報告から腹横筋の収縮遅延は腰痛の原因ではなく結果であると示唆されています。

<腹腔内圧理論の限界>

また一般的に腹横筋の収縮を促すドローインによって腹圧を高めることで体幹が安定しパフォーマンスアップや腰痛予防に繋がると考えられていますが、この腹腔内圧理論も疑問視されています。

まず腹腔内圧を上げることで体幹伸展モーメントに寄与し体幹伸展筋群への負担を減らして腰痛を予防しようということですが、その力は非常に弱く体幹伸展モーメントにはほとんど寄与せず、寄与できるほどの力を発揮しようとすると脊柱や椎間板に対する圧縮荷重負荷が増加してしまうことが複数の研究からわかっています。

さらに重量物挙上時に腹腔内圧で脊柱を保持して挙上動作を遂行しようとすると腹腔内圧は250mmHgを超える必要があり、これが維持される場合には腹大動脈が圧迫されて内臓と下肢への血液供給が遮断されることになりますし、腹筋群の筋断面積を考慮するとそれだけの筋力を発揮することは事実上不可能です。

また、四肢運動時に起こる腹腔内圧の増加の程度やタイミングが体幹前屈や腹筋群の活動性と一致していないことが証明されてます。

Hemborgらの研究では『20例の男性腰痛患者に対して5週間の等尺性腹筋トレーニングを行い、挙上動作時の体幹筋活動と腹腔内圧を測定したところ、体幹筋活動は改善したが腹腔内圧に変化は認めなかった』という報告からもドローイン以外にもスタビライゼーションを中心とした体幹トレーニングの効果にも疑問を投げかけることができます。

さらにその後の検討では腹腔内圧を上昇することができるのは横隔膜だけだということが示唆されています。

<動きを作れば必要な筋収縮は促通できる>

メディカルピラティスの先駆者でありポールスターピラティスの創始者ブラント・アンダーソン氏は自身の講演で

『骨盤底筋群の収縮を意識させるインストラクター達の骨盤底筋群の収縮を調べたら半分のインストラクターしかできていなかった。そういったインストラクター達に胸郭の動きを引き出す運動を実施したら骨盤底筋群の収縮を促すことができた。』と話しています。

このことから特定の筋肉を意識させるトレーニングよりも正しい動きを引き出すようなトレーニングを行う方が効果的であることが示唆されます。

<まとめ>

このように一般的に腰痛予防、競技パフォーマンスを上げるために必要だと考えられ実施されてきた体幹トレーニングは効果がないことが近年の研究で明らかにされてきています。

EPochスポーツ事業部ではドローインやスタビライゼーションによる体幹トレーニングではなく、運動連鎖を考慮した正しい動き・効率的な動きに特化したトレーニングを提供いたします。

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